
「犬はヴィーガンになれるのか?」を考える|More than us
犬の食事:肉の割合はどのくらい?:市販のフード・手作り食の肉の割合
「犬とはお肉を食べるもの」。そう思っている方が大多数だと思います。実際、犬や猫のグッズを扱う専門店には肉の割合をとても高くした高級なフードがたくさん並んでいます。手作りの場合も、半分くらいの割合が肉、そしてBARF Diet では多くて 8割が(骨を含む)肉、となっています。
オオカミのような食事が理想?

たとえば、ドイツ発祥の BARF。生物学的に(Biologically) 適切な(Appropriate) 生の(Raw) 食事 (Food) の略と一般に言われます。たしかに高品質の生肉や新鮮な果物・野菜は、食事全体のクオリティからすると粗悪な加工フードよりずっと優れています。多くの場合、良質な素材を使った肉の含有量が高い加工フードも同じです。
これらは「犬の祖先であるオオカミのような」「自然の食事」に近いもので、「理想的」とされていますが、これについてもっとよく見てみましょう。
犬と狼は「生物学的に」同じか?

犬が人間と暮らすようになって1万年以上経ちます。祖先であった狼と犬の決定的な違い、それは何か?私たち、人間の影響です。
もともと人間が狩猟採集をしていたころから人間の残飯(狩った獲物の残りや食事の残り)をもらう代わりに人間の役に立つことで相互関係を築いていった犬という種 Canis lupus familiaris。狼(Canis lupus)とは別の生物種になったのです。
二つの種を分けている要素は多くあります(ほとんどの犬は狼より身体が小さいなど)。2013年に科学誌「ネイチャー」に掲載された研究では、二つの種の全ゲノム塩基配列の再解読を行いました。そして、犬は家畜化の過程で狼とは異なる遺伝子36個を進化させたという事実が明らかになりました。
36個の遺伝子のうち半分以上は脳に関するものです。これによって犬は人の表情や行動を読み取り推測する能力を身に着けました。(例えば、人の悲しい表情に対して犬がストレスを感じていることを明らかにした別の研究もあります。)
犬にとっての自然な食事は人の影響なしにあり得ない

「ネイチャー」掲載の遺伝子の研究では、もう一つ明らかになったことがあります。それは、「10個の遺伝子はデンプンの消化および脂質の代謝に重要なものであり、現在のイヌは肉食性のオオカミと比較してデンプンの多い食餌でもうまく生きていけるようになっている」ということです。
この研究は2013年に発表されていますが、例えば BARFは1993年にオーストラリアの獣医により出版された本がきっかけとなっています。30年前です。
農耕生活が始まり穀物や野菜を育てるようになった後も、犬は人の残飯をもらうことで生き延びてきた。つまりそれは犬が穀物(でんぷん質)を食べて生きてきたということです。そしてそのために必要な遺伝子を持つようにまで進化している。それが現代の犬です。

犬にとって自然な食事。それは、人間の暮らしとともにあるのではないでしょうか?実際、オオカミが食べている野生動物の肉と、現代の犬たちが食べている家畜の肉は、全く違っています。狭い場所で効率よく家畜を育てるために抗生物質やホルモン剤が多用されていることは、すでに周知のこととなりました。また、同じ動物である家畜の「幸せ」(アニマルウェルフェア)についても動物と暮らす私たちには気になる視点です。

ヴィーガン食を試してみよう

犬をこよなく愛する国イギリスで2022年4月に発表された研究では、栄養のバランスが取れていればヴィーガン食方が肉の割合が高い食事に比べて犬にとってより安全で健康であることがわかっています。
2500頭を対象としたこの研究では、22種類の病気と獣医へ通う回数を指標としました。そのうち、獣医へ通う回数は、肉食の犬ではそのうちの半分が、ヴィーガンの犬では1/3が定期的に(病気のため)獣医へ通っていることがわかりました。
完全なヴィーガン食をしている犬もたくさんいます(猫は難しいです)。2021年の別の研究では、犬にとってヴィーガン食が「まずい」ものではなく、おいしいものでありうる、ということもわかっています。
完全にヴィーガン食に切り替えなくても、肉の割合を減らすこと自体は、地球のためにも健康のためにもいいことです。最低でも週に1度くらいは、ヴィーガン食またはベジタリアン食にしてみませんか?
