動物の「幸せ」
アニマルウェルフェアは、日本語では動物福祉と訳されます。「福祉」という言葉を辞書でひくと「幸せ」「幸福」などの言葉が出てきますから、簡単に言うと動物の幸せ、ということです。
動物にとっての幸せとは何か?これはとても難しい質問です。なぜなら、何がその動物にとって幸福な状態かは、生態学的・生物学的に理解しようとする姿勢が必要だからです。例えば家庭犬にとっての幸せは空腹や苦痛がない状態で飼い主と一緒にいること、猫にとっては同じく空腹や苦痛がない状態ですが必ずしもいつも飼い主と一緒にいなくても自由にテリトリーを動き回れること、のようにそれぞれの種によって異なります。
「5つの自由」- 家畜のアニマルウェルフェアから
ただ、すべての動物(人間も含めて)に共通する考え方として、「5つの自由」というものがあります(コラム)。1960年代のイギリス政府が作った専門家の委員会から出てきた考え方で、もとは家畜のウェルフェアに配慮しようという動きから生まれました。現在では、動物保護団体などにも支持されて広く知られています。

また、家畜のウェルフェアでいうと市民レベルでアニマルウェルフェアの動き自体が広まるきっかけとなった本があります。1970年代半ばにピーター・シンガーという哲学者が書いた『動物の解放』という本で、世界中で広く読まれ2009年に改訂版が出されています。本では鶏・豚・牛などの家畜が産業畜産によって狭い場所で劣悪な状態で飼育されていることが指摘され、ベジタリアンやヴィーガンのムーブメントに火がつきました。
家畜の場合、「最終的には食べる目的なのだから」という声も聞こえてきますが、だからと言ってその間に何の配慮もしないことは、人間の倫理や品性に関わることでもある、というのが家畜のアニマルウェルフェアです。ですから最後の屠殺の時にも、できるだけ苦しまない方法で、ということになります。もちろん、それを初めから避けたいという理由でヴィーガンやベジタリアンになる人もいます。



「動物が好きな人だけが考えればいいこと」ではない
誤解のないように書き足しておくと、この本は「動物はかわいいから、かわいそうだから」きちんと世話してあげよう、という考えで書かれてはいません。人間の管理下にあって自分たちには選択権のない存在、しかも痛みや苦しみを感じる存在を何の配慮もなく扱うことは倫理に反する、という考え方です。
このように、アニマルウェルフェアは人間が自分の管理下に置く(場合によってはそれ以上の範囲の)動物たちに対して彼らの幸せにも配慮する義務を負っている、という考えから来ているので、「動物が好きな人だけが考えればいいこと」ではないのです。例えばEUなどでアニマルウェルフェアが法律や政策にきちんと組み込まれているのは、アニマルウェルフェアは人間社会全体の課題と捉えられるから、と言えるでしょう。
近代までは神道や「山川草木悉皆成仏」という言葉に表されている通り仏教的な世界観に根差してきた日本社会で、アニマルウェルフェアがどう浸透していくか、今後の発展が注目されますね。
