More Than Usセミナーレポート「Pawprint ~エシカルに動物と暮らすには~」

More Than Usセミナーレポート「Pawprint ~エシカルに動物と暮らすには~」

2022年7月28日 More Than Usチャリティセミナー「Pawprint ~エシカルに動物と暮らすには~ 家畜のアニマルウェルフェアってなあに?」を開催しました。

このセミナーでは、私たちと暮らすコンパニオンアニマル、特に犬との生活において、近年とくに課題として注目を集めている「肉食」について、環境負荷・家畜のアニマルウェルフェアの二つの視点から皆さんと考えてみました。同時に、日々の生活の中で楽しく喜びを見つけながらこういった課題に取り組むヒント、さらに課題に取り組むうえで直面する悩みについて、実際の例を交えつつ紹介をしました。More Than UsのYouTubeチャンネルでぜひご覧ください!

https://youtu.be/nj-xImITdfI

セミナーのポイント

犬には本当に「オオカミのような食事」がいいのか?

BARFダイエット(Biologically Appropriate Raw Food:生物学的に適切な生の食事)は、食事の80-90%が生肉を占めるお肉中心の食生活です。日本でも愛犬の食事として実践している人の多いBARFダイエットですが、「そんなにたくさんお肉をあげても大丈夫なの?」という疑問も良く聞かれます。

犬と狼は「生物学的に」同じか?

犬は人間と暮らす中で、狼と異なる遺伝子を進化させ、より人間との関係を強化する遺伝子を持つようになりました。犬と狼は生物学的に見ても、大きく異なる生きものです。このセミナーのトピックにも関連する重要な違いは、犬にはデンプンの消化・代謝に必要な遺伝子を備えており、狼のような食事以外にも適応できる、ということです。最近特に欧米では犬のヴィーガン食が注目を集めており、今年(2022年)にイギリスでは、ヴィーガン食が(栄養のバランスが摂れていれば)犬の健康にとってベターであるという研究結果も発表されています。

Pawprint~犬一頭はSUV4台分?~

犬の食生活をめぐる近年の変化の理由の一つは、犬との暮らしが環境に与える負荷が課題として認識されるようになったことにあります。「犬一頭はSUB4台分」というのは、2009年の研究による数字ですが、犬(や猫)が環境に与える負荷(特に、どれだけのCO2を排出しているか=フットプリント)は、私たちが思っているよりも実は多いです。

お肉をめぐる二つの負荷

環境負荷:家畜のための飼料の栽培・加工や運搬などの現場からはCO2が排出されます。さらに、飼料となる大豆の栽培や畜牛に必要な土地のために伐採されるアマゾンなどの森林減少が、現在深刻な問題となっています。

家畜にかかる負荷:現在全世界の農地の80%以上が家畜用に使用されています。今後はさらに肉への需要が高まり、限られたスペースでより「密」に家畜を飼育するスタイルの畜産(工場畜産)が増えてしまうだろうと言われています。

家畜のアニマルウェルフェア

アニマルウェルフェアとは、以下の5つの自由が動物にとって確保されているか、ということを意味します。

「どうせ食べるのだから」という意見もあり、反対に「家畜の幸せのために」と完全なヴィーガンスタイルを選択するという意見もあります。「たとえ最終的にはお肉になるとしても、家畜は生きものであり、痛み・苦しみ・恐れを感じることを理解し、生まれた時から完全に人間の管理下にある彼らの扱いに対する人間の責任を考える」ということが家畜のアニマルウェルフェアだとMore Than Usでは考えています。

犬や猫との楽しいエシカル ~ アーチャーくん ~

実際に愛犬と楽しくエシカルを実践されているアーチャー君のお話を紹介させていただきました。アーチャー君に寄稿いただいた記事は、こちらで全文をご覧いただけます:
愛犬との暮らしから考えるサステナブルなライフスタイル ~ 犬と暮らすからこそ見えてくること ~

悩んでいい。ヴィーガン・ベジタリアンスタイル

アニマルウェルフェアやヴィーガン・ベジタリアンに向き合うことで生まれる悩みについて、More Than Usのメンバーが率直に語ってくれた記事を紹介しました。全文はこちらでご覧いただけます:
食べれる肉・食べれない肉 ~ 食べるという選択とジレンマ ~

ともに生きるには?黒か白かではなく、できるだけ白に近い選択を

Mariの記事でも紹介したように、ギルトフリーの食べ物はいまありません。そんな中大事なのは、白か黒かではなく、できるだけ白に近い選択を極力ストレスを感じずに継続していくことだと思います。上で紹介したアニマルウェルフェアを意識し、いつもはできなくても、時々やってみることが大切です。

More Than Us過去セミナーより ~ 卵と草原と動物解放:アニマルウェルフェアってなあに? ~

More Than Us過去セミナーより ~ 卵と草原と動物解放:アニマルウェルフェアってなあに? ~

More Than Usでは2020年から2021年にかけて、動物福祉・地球環境問題について包括的にお話しする4回シリーズのセミナーを開催しました。ブログ記事の形でその内容をご紹介します。

「卵と草原と動物解放」と題したシリーズ2回目のセミナーでは、やわらかく「アニマルウェルフェアとは何か?」を考える1時間を目指し、まずはよく知られる「5つの自由」を「うちの子」に当てはめることからスタート。ドッグトレーナーで More Than Us メンバーの Misaki から、犬のストレスへの対処方法として「ストレスにうまく向き合えるようにしてあげる」ことについてお話しました。

犬の写真

そこから、5つの自由を野良猫、動物園や水族館の動物、さらには家畜に当てはめるとどうか?と少し考えていただきました。例えば野生のイルカは種類によっては1000キロ以上にもわたっていること、それを考えるとどんなに広い水族館でも5つの自由の5番目(正常な行動を表現する自由)は確保できないことなどを紹介しました。

そして、もともとアニマルウェルフェアは「人間による動物の支配の歴史」への反動であったことをお話しました。西洋では古代ギリシャ時代の哲学者やユダヤキリスト教の要素を基盤としているとされる、人間優位の歴史です。17世紀には「動物は機械である」とする考えが最高潮に達し、やがてその反発としての現代のアニマルウェルフェアの芽生えに続きます。

写真:18世紀の啓蒙主義の思想家、ジェレミー・ベンサム

問題は、彼らが思考できるか、ということでも、彼らが話せるか、ということでもなくて、彼らは苦しむことができるか、ということである。 

ジェレミー・ベンサム

18世紀には、後に多くのウェルフェア家が引用する上記の有名なセリフを思想家ベンサムが残し、現在の、痛みや苦しみを感じる動物には人間は配慮をすべきというアニマルウェルフェアの考えが生まれています。5つの自由が出てきたのは1960年代のイギリス。これは家畜の扱いについて厳しい批判をしたルース・ハリソンの『アニマル・マシーン』という本がきっかけです。

現在、最もよく知られる関連著作のひとつに哲学者ピーター・シンガーの『動物の解放』があります。シンガーは動物への「差別」を「種差別」とし、人種や性別に基づいて行われる差別と同じとし、痛みや苦痛を感じる生き物たちへ、人間からの配慮の「枠」をいかに拡大できるかを問いかけています。

「うちの子」たちはお肉をたくさん食べています。卵や乳製品のパッケージによくある広々とした草原とは裏腹な現状。人間の管理下にある他の動物たちも同じことです。「うちの子」の幸せとは格段に違うレベルです。

セミナーの最後に、自分たちに何ができるか?を一緒に考えてみました。まずは「知ること」。そして自分で考えてみてから、アクションを取ること。人間はこの地球に暮らす以上、誰しも動物に関係のない人はいません。アニマルウェルフェアは「動物好きな人」が考えることではなく、人類みんなに関係のある問題である、だから関係ないと言っている人に考えてもらうことが大切、ということをお話しました。

More Than Usセミナーの写真

考えてもらうにはどうしたらいいか?こうしたことを一気に一人で解決することはできませんし、無理をしすぎると怒りや分断を生むということをお伝えしています。たとえば「ビーガン」は難しくても基本は植物ベースで過ごしてみる「フレキシタリアン」スタイルなど、より人にも進めやすい柔らかいやり方も今はたくさん選択肢があります。できることからはじめよう、月並みですがそんな話で締めくくりました。

アニマルウェルフェア(動物福祉)とは?その2|More Than Us

アニマルウェルフェア(動物福祉)とは?その2|More Than Us

今回の記事では、More Than Us FounderのMariが「アニマルウェルフェア(動物福祉/Animal Welfare)」について、詳しくお話しさせていただきます。通常のブログよりも長く、内容は硬く、ショッキングな部分もあるかと思います。ライトで楽しい内容の方が読者の皆様は嬉しいのではないか?とも考えましたが、皆さんにはぜひ知っていただきたいテーマなので、掲載を決めました。ぜひ愛犬・愛猫のことを思いながらご一読いただけると嬉しいなと思います。

アニマルウェルフェア
今回のテーマは「アニマルウェルフェア(動物福祉/Animal Welfare)」。「ウェルフェア」というのは「福祉」とか「幸せ」と訳されます。私は一時、ボストンにあるIFAW (International Fund for Animal Welfare:国際動物福祉基金) に自然保護の政策アドバイザーとして所属していました。ゾウなど野生生物保護や、コンパニオンアニマルのレスキュー支援などをする団体です。また今年で9年目になる東京の大学での講義でも、環境の講義の一環で「動物倫理」を教えています。政策という実践的な側面と、倫理という抽象的な側面からAWに触れてきて思うことは、色々な「論争」はさておき、AWにはやはり、私たち人間と地球の未来のカギが含まれているだろうということです。身近な動物たちを私たちがどう扱うかは、ひいては私たちが地球をどう扱うかに通じるものがあるからです。

人間と動物の関係:背景にある考え方とその歴史
チャールズ・ダーウィンの『種の起源』(1859年)で知られる進化論が登場してすでに1世紀半以上、人間と他の生き物との心理的距離というのは縮まってよいはずですが、なかなかそうなりません。人間と動物との関わりについての最初の哲学的な考えは古代ギリシャの書物にも発見されています。プラトンやアリストテレスといった哲学者たちは、動物の「獣性」を人間の「知性」と比較して人間が優れている(より神々に近い)点を強調しています。これが、人間が動物(地球)を人間の都合で扱ってよいとする考えの、一つのルーツとされています。この考えはずっと後の18世紀の有名な哲学者エマニュエル・カントの考えにも見られます。カントは、人間だけが「理性」を持つとして、理性のある人間だけが「契約」を結ぶことができるとしました。つまり、人間が他の人間に対して適用するルールを動物には適用する必要がないということです。

似たような考えとしてより広く引き合いに出されるものに、17世紀の哲学者リンネ・デカルトの「動物は機械である」という表現があります。実際にはデカルトは本当にそう考えていたわけではないとも言われていますが、そのころ盛んに行われていた動物実験をうまく正当化する考え方です。デカルトが動物を機械であるとしたのは、動物には「魂がない」ということが理由でした。

一方、もう一つ脈々と受け継がれてきた考えに、動物は人間のために存在している、というものがあります。「人間以外の動物も、人間のために生まれ養われているのは明らかではないか。」とソクラテスが言ったとされていますが(実際にはどうか明確ではありません)[1]、この考え方は後のキリスト教の考えにも見られ、1970年代の環境保護運動ではキリスト教的な考えが環境破壊のルーツだとして批判の的となりました。 [2] これに対して仏教では人間は自然の一部でありすべてのものに仏性が宿るとされることが強調されました。
[1] クセノポン『ソクラテスの思い出』[2] リン・ホワイト「現在の生態学的危機の歴史的根源」(『サイエンス』1967年3月号)

アニマルウェルフェアのはじまり
犬や猫と暮らす方は、きっと納得できない気持ちでこれを読まれたことでしょう。私たちは、彼らにもちゃんと精神的な活動があって、喜怒哀楽があって、幸せ不幸せを感じることができることがよくわかるからです。実際に、アリストテレスやプラトンの、すべての動物を「獣性」を宿すとする考えは、動物の観察が足りなかったとされています。

同時に、理性や知性があるからこそ、それを正しく使うのが、人間の品性を高めるということになるのではないか、という考えも、古代ギリシャの頃から存在しています。そして厳密に言えば、AWの中でも人間を中心に置く考えと、動物を中心に置く考えとに分かれています。前者は、「人間の(利便や精神的発展の)ために」動物に配慮する、という考えです。後者は、『動物の解放』で有名なピーター・シンガーや動物の権利を提唱したトム・リーガンの考えのように「動物の(内在的価値、固有の価値、幸せ、苦痛を与えない、などなどの)ために」動物に配慮する、という考えとに分かれます。こうした現在のAWの基本的な考え方についてもいつかもっと詳しく書きたいと考えていますが、この記事を読んでくださっている方の多くは、動物のために彼らの幸せに配慮したいと考えておられるだろうと私は思っています。

ところが、現在の日本では、少なくとも法律や行政の規則のうえでは、前者がベースです。これが、大変残念ながら、(殺処分をするのは)(地域猫を否定するのは)「犬が(猫が)かわいそう」と言っても通じない理由の一つであり、動物のために行動する人と、そうではない人との間のコミュニケーションがうまくいかない原因となっていることは間違いないと思います。最初から、スタートラインが違っているのです。

動物の幸せや(道徳上の)権利を代弁したい、そういう気持ちでいる私たちの側は、もしかしたらそういう気持ちにならない人の考えを、もっともっと知る必要があるのではないか、と私は考えています。そしてそういう考えをしない人にどうAWを考えてもらうか、を考えることが必要なのだろうなと。そして、AWを考えるには、然に近い環境がより適している動物たちのため地球のこと・そこに住む人たちのことを考える必要があります。そんな風に、犬や猫のことも地球視野でお客様と一緒に考えたいと思ったのが、More Than Us というチャリティープロジェクトを作った理由です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。これからも、お客様と一緒に、動物の幸せを考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

動物福祉(アニマルウェルフェア)とは?|More Than Us

動物福祉(アニマルウェルフェア)とは?|More Than Us

今回のブログのテーマは、犬や猫を愛する人にはとても気になる「アニマルウェルフェア(動物福祉)」!難しくてよくわからない、でも興味がある、というお声が多いのですが、動物と暮らす側としては色んな人に紹介できるようになりたいですよね。これはMore Than Usでもずっと大切にしてきたテーマ。基本をご紹介します。

アニマルウェルフェア(Animal Welfare: 動物福祉)は、人間が動物を「どう扱うか」を問題にした考え方です。欧米ではそのための法律があったり、一般の人にも良く知られている考え方ですが、日本ではまだなじみがありません。

「ウェルフェア」とは「幸せ」のこと。簡単に言えば、動物の「幸せ」にも配慮して行動する、という考え方です。「言葉を話せない」「理性を持っていない」ということが、倫理的な配慮をせずに人間が動物を扱う(例:虐待)理由に挙げられますが、アニマルウェルフェアで問題にしているのは、例えば喜びや痛み・苦しみを感じることができるか、という点。

その意味では、特に哺乳類はすべて、この対象となると考えられています。アニマルウェルフェアで難しいのは、どこで線引きをするのか、すべての動物を同様に扱うのか、といった点です。しかし、例えばコンパニオンアニマルである犬や猫が、喜び・痛み・苦しみを感じることができる、ということは分かります。

More Than Usでは、動物の幸せへの配慮の枠を、できるだけ大きく広げたい、そういう願いを根本に持って行動しています。